「広島の音楽史」(仮称)編纂・出版計画概要
「ヒロシマと音楽」委員会は平成24年1月28日から、「広島の音楽史」(仮称)編纂・出版計画の事業を開始しています。
この度、2013 年(平成25 年)3 月16 日エリザベト音楽大学で行われた日本音楽学会西日本支部第11 回(通算362 回)例会において,ラウンドテーブル「戦前の広島における洋楽の普及― 『広島の音楽史』編纂に向けて(中間報告会)―」と題して発表した内容を,各発表担当者が加筆・修正を加えながらまとめた報告集を作成しました。
「広島の音楽史」編纂プロジェクトの主旨
1945年(昭和20年)8月6日の原爆投下により壊滅的な被害を被った広島の音楽文化も,現在ではプロのオーケストラを抱えるとともに全国有数のオペラ活動推進地となっている。こうした広島の音楽活動,とりわけ洋楽文化の発展は,呉の海軍軍楽隊,広島高等師範学校の音楽教員の活動,広島女学院に赴任したアメリカ人宣教師の活動など,さまざまな人々の尽力により,明治から大正にかけて洋楽の流入が促進された結果であったと考えられる。また,音楽伴奏を伴う無声映画やレコードの普及,さらに昭和初期に始まったラジオ放送がその浸透に拍車をかけたものと思われる。けれども,原爆投下により多くの人材と文化財,また資料が消失した広島では,戦後の様子が語られることは多いのに対し,戦前の音楽活動が振り返られることはこれまでほとんどなかった。そこで,「『広島の音楽史』編纂プロジェクト」を立ち上げ,広島における洋楽の普及と受容の過程を,戦前からの流れを含めて改めて追求することとした。またそのことにより,「ヒロシマ」という壊滅的な破壊を受けた一都市の文化復興の過程,様子を明らかにしたい。
「普及」と「受容」について
以上の主旨のもと,本プロジェクトでは特に「洋楽」に着目しその受容と普及の過程をみることにした。ここで,次のことを確認しておく。すなわち,「普及」と「受容」という用語の概念であるが,広島で洋楽を普及させた人々(機関)は同時に最初の洋楽受容者でもある。しかし本プロジェクトが最終的に目指すのは,一部の富裕層,知識層による洋楽の受容だけではなく,より幅広い層の人々による洋楽受容の歴史についてである。よって,最初の受容者が洋楽の「受容者」であった点よりも,彼らが幅広く洋楽を「普及,浸透させた」点により大きな意義を見いだし,着目することにした。
4つの視点(分野)について
一方,本プロジェクトでは,広島における洋楽の普及に重要な役割を果たしたと思われる「公的機関」に焦点を当て,各機関における洋楽関連の活動状況をまずは個別に調査することとした。こうした機関が洋楽普及に果たした役割をみるとともに,そこから派生したと思われる活動や,機関同士が相互に連携,あるいは影響を与えながら発展していった活動など,これらの機関をとりまく洋楽普及のダイナミズムを捉えながら広島の音楽史をたどっていくのが最終的な目標となる。その機関として挙げられるのが次の4つである。
① 海軍軍楽隊(呉海兵団軍楽隊)
② キリスト教布教に関わる機関(ミッションスクール,教会)
③ 官立の学校(とりわけ広島高等師範学校,広島県立師範学校)
④ 放送局(廣島中央放送局)
以上の内容を確認した上で,第一回中間報告会を開催した。報告会では,上記の①から④の順に15分を持ち時間として各担当者が発表を行い,その後,会場を交えての全体の意見・情報交換会を行った。フロアからは活発な意見,質問が出されたが,その詳細についてはここでは省略する。ただし,いずれの内容も,本プロジェクト,ならびに個別の研究内容の今後の方向性や課題として大きな示唆を与えるものであった。その際,実りある意見・質問や助言をくださった方々に,ここに記して感謝します。また,本報告会の場を与えてくださった日本音楽学会西日本支部,ならびに支部例会担当の先生方にも深謝します。
2013年(平成25年)5月
「広島の音楽史」編纂プロジェクト (文責;能登原由美)
ここに、報告集をpdfにて掲載します。
データが多いので4つのファイルで紹介します。
つぎの目次にて参照下さい。
呉海兵団軍楽隊が広島の音楽普及に果たした役割
―先行研究の概観と今後の課題―……………………………………竹下 可奈子……1 『広島の音楽史』編纂-2
広島の洋楽普及におけるミッション・スクール、及び母体教会の役割
―戦前の「広島女学院」と「広島流川教会」を中心として―……光平 有希………9 『広島の音楽史』編纂-2
広島の洋楽普及における広島高等師範学校の役割
―吉田信太に焦点を当てて―…………………………………………大迫 知佳子……16 『広島の音楽史』編纂-3
広島の洋楽普及における放送メディアの役割
―『廣島中央放送局開局十年史』にみる―…………………………能登原 由美……22 『広島の音楽史』編纂-4