広島・長崎の被爆以後、世界の多くの人々は人類の絶滅を現実のものと考え、さまざまな表現行為を行ってきた。文学、映像などの分野では、ヒロシマ・原爆・核兵器廃絶・平和に関する資料について関心も高く、データベース化も進んでいる。しかし、音楽の分野においては、資料収集すらいまだ充分とはいえない現状である。
被爆50周年の1995年4月、RCC中国放送は被爆地の放送局の使命として、開局以来取り組んで来た報道・制作事業の節目として、また2002年のRCC中国放送創立50年を念頭におき、21世紀の新たな50年の第一歩とすることを目標として、「ヒロシマ50年プロジェクト」を発足させた。そして、その「ヒロシマ50年プロジェクト」の事業の一つとして「ヒロシマと音楽」実行委員会を結成し、「ヒロシマと音楽」に関わる資料作成事業に取り組むことにした。
RCC中国放送の「ヒロシマ50年プロジェクト」企画書では、「ヒロシマと音楽」資料作成事業について、次のように記している。
被爆50年を迎えた1995年、広島の民間放送ラジオ局としての最もふさわしい事業と考え、「ヒロシマ50年プロジェクト」のひとつの事業として、「ヒロシマと音楽」資料作成事業に取り組みます。この事業は、被爆50年を機に、音楽関係者、広島市関係機関の協力を得て、歌謡曲・ポピュラー・クラシックなど音楽のすべての部門でヒロシマ・原爆・核兵器廃絶に関わりのある曲のリストアップと掘り起こし、音源の確認、付帯資料の作成等を行い、データベース化しようとするものです。調査項目としては、曲目、部門、作曲者、作詞者、演奏者、楽譜の有無、音源の有無、音源の所有者などが考えられます。
「ヒロシマと音楽」実行委員会によるこの事業は、被爆50周年の1995年4月から2002年3月までRCC中国放送の主宰により行われたが、2002年11月からはRCC中国放送を離れ、現在の「ヒロシマと音楽」委員会に引き継がれている。2004年には当初からの念願であった広島市へのデータベース移管が実現し、新たな局面を迎えることになった。
この間、収集したデータは2004年8月からは広島平和記念資料館の「平和データベース 音楽・音声」で掲載されている。「ヒロシマと音楽」データベースが掲載されているホームページのアドレス(URL)は次の通りである。
広島平和記念資料館の公式ホームページ 平和データベース
「ヒロシマと音楽」に関わる資料作成事業は、今後もこのような趣旨の音楽が生まれる限り続けられるべきものと思われる。委員会では広島平和文化センターへのデータベースの寄贈を一つの節目として、これまで各委員が関わってきた率直な印象や経験を活字にまとめ、収集したデータとともに出版に踏みきることにした。誠にささやかな成果ではあるが、私どもの取り組みの一端をご理解いただければ幸甚である。
次に「ヒロシマと音楽」データベースに関する概要を記しておきたい。
データベース作成の概要
①「ヒロシマと音楽」で資料収集する対象
広島の原爆被害をテーマとする曲
ノーモアヒロシマの祈り・願いをテーマとする曲
核兵器のない平和な社会の希求をテーマとする曲
広くヒロシマをモチーフとする曲
②データベース作成の方針
すべてのジャンルにわたり「ヒロシマと音楽」に関する国内外のデータを入力する。
楽譜の所在、音源の有無を入力し、実用に即したデータベースを志向する。
作品や作曲者に関する情報もできるだけ入力する。
③ 資料収集の方法
RCC中国放送に保管されているレコード・CD・ラジオ番組データベースの資料、(財)広島平和文化センターの資料、広島市文化振興事業団(現広島市文化財団)の資料、『反核・日本の音楽』(芝田進午ら編 1982年 汐文社刊)の資料等を基礎資料とする。1995年の「ヒロシマと音楽」実行委員会の設立時からRCC中国放送が放送でよびかける。音楽家ユニオン所属の作曲家・指揮者によびかける。基礎資料のデータから作曲者・作詞者へ問い合わせ、情報を補足する。
④ データベースの項目
部門、曲名、曲名(カナ)、原題、作詞者名 国名・生年~没年、訳詞者名、作曲者名 国名・生年~没年、 作曲年、編曲者名 編曲年、 編成、初演年月日、初演場所、演奏者名、演奏時間、音源(有無)、楽譜(有無)、再演年月日、著作権登録(有無)、記事で構成。
データベースの概要(2004年3月25日現在)
①データベースに登録された曲数は、1867曲
分野別による内訳
ポピュラー 77曲
歌謡曲 142曲
クラシック 642曲
邦楽 29曲
民謡 13曲
その他 964曲
②作曲年代別による内訳
1940年代 28曲
1950年代 105曲
1960年代 102曲
1970年代 155曲
1980年代 194曲
1990年代 52曲
2000年代 5曲
年代不明 1226曲
③音源が確認されるものは463曲
保管場所は、RCC中国放送、広島平和記念資料館、作曲者本人。
楽譜が確認されるものは512曲
保管場所は、RCC中国放送、広島平和記念資料館、芝田資料、作曲者本人。
音源、楽譜ともに確認されるものは223曲。
「ヒロシマと音楽」実行委員会(1995年4月~2002年3月) (50音順)
秋信利彦、井尾義信、石田信之、出雲敏弘、井上一清、井原隆一、大原健嗣
小森敏廣、近藤憲男、才木幹夫、佐々木典明、玉木実、千葉佳子、戸田武男
内藤秀昭、長松勇、濵本恵康、原田宏司、平井達也、本多正登、牧野睦夫
松本憲治、三木基次、山崎克洋、山本瑩子、山本喜介、米田勁草、和田崇義
綿谷陽子、渡部朋子
「ヒロシマと音楽」委員会(2002年4月~ ) (50音順)
井尾義信、井上一清、上寺晃子、小森敏廣(事務局長)、才木幹夫、千葉佳子
能登原由美、原田宏司(委員長)、濵本恵康、山崎克洋、渡部朋子
(オブザーバー)大原健嗣