ある態度表明

黒住 彰博

  私は1984年に開催された「第5回ノーモア・ヒロシマ・コンサート」において〈チェロとピアノのための「死せる広島を偲べる哀歌」〉という曲を発表した。以下はその時のプログラム・ノートである。
 

歴史の流れの中で数多く繰り返されてきた数々の残酷な行為、そして現在でもなお繰り返されていること、さらに未来においても繰り返されるであろう人間の愚行。「こんなことをするのが人間というものなんだ」という、くやしく悲しい認識は、あきらめと怒りとがからみ合った感情の塊を造り出す。そして、「いったい何故こんなことになったんだ?」という苦しい探求が始まる。自己自身と、自己が生きている社会とを被告席に呼び出し、弁護人抜きの裁判が始まる。今までやさしく柔和な面だけを見せていた自己と社会とは尋問が進むにつれ、その醜悪な「影」の顔と血に飢えた狂気をさらけ出す。「鬼」とそれを生み出した社会への呪詛と怒り。そしてその激しい感情は、平和と人間性とを力強く求める柔和な心優しき人々の存在に救いを見出す………。
 広島でのあの出来事は、こうした怒りの原点としてぼくの心にしみついている。そしてこの曲は音楽によるぼくの一つの態度表明である。

  二十一世紀の初めである今日、これを読んでみてあらためて思う、「今も同じことを感じている」と。当たり前であろう。核兵器がどんな厄災を地球にもたらすものか、その実態を知っていない人々や知ろうとしない人たち、そして知っていながらこの兵器に利益を見出す輩の行なう核実験が相も変わらず続いている以上、この感想は強まりこそすれ決して弱まることはない。そして音楽家である私にできることは、この思いを音楽で表現することで「核兵器断固反対!」という確固とした一つの態度表明をすることである。

(黒住彰博・広島文化短期大学教授、広島市在住)

ヒロシマと音楽

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