ヒロシマの叫びと祈り

植野 洋美

〈つぶやき ― 核兵器反対の歌〉
Tsubuyaki ― The Song for the Nuclear Weapon Contrary

  この作品は、広島の被爆に関する話題がきっかけとなって作曲し、1997年11月、ソプラノ金子利香氏とピアノ金子浩三氏によって大阪(アイフォニックホール)で初演され、大きな反響を呼んだ。2004年9月、〈気楽に聴ける・室内楽の夕べ〉において、ソプラノ坂井里衣氏と作曲者のピアノにより念願の広島(サタケメモリアルホール)で再演され、再び多くの感動の声が寄せられた。同年10月、〈京都の秋・音楽祭〉(京都コンサートホール)でも再演され、多くの好評と賛同を得ると共に演奏会の中心的作品として注目を浴びた。歌詞は自作で、「もはや二度と核兵器は要らない」という意味以外の英語は、敢えてあまり意味のないものを並べ、強烈な日本語との対比を試みた。日本語の部分は「語り」によって、また、英語とヴォカリーゼの部分は正確な音程によって表現される。楽譜には作曲に寄せる思いが書き添えられている。「私一人が叫んでもそれはただの「つぶやき」にしかならない。誰が叫んでも、やはりそれはただの「つぶやき」にしかならない。でも、世界中の人が一斉に叫べば、ひょっとしたらそれは大きな叫び声となって、大きな力となって、世界を揺り動かすかもしれない。今後は日本のみならず海外でも再演され、この叫びを広げていけることを願っている。

あなたは、重大な罪を犯してしまったのです。(Ah…)
苦しみながら息絶えていった多くの人々の無念な思いをあなたはわからなかったのですか。(U…)
夏になるといつも悲しい、日本の夏は。(U….)
あなたは百万回地獄に落ちるでしょう。(Ha…)
Atomic energy, atomic power generation, nuclear weapon, no more….
No more nuclear,No more nuclear,No more nuclear― 
拝啓。核兵器を使用したあなたへ。

 
〈ピコ・ワールドⅡ ― 平和の祈り〉
Pico World II ― A Prayer for Peace

  
  本作品は、エリザベト音楽大学サクソフォン・ラージアンサンブル研究会より委嘱を受けて作曲した12人のサクソフォン奏者のための作品である。2005年3月、『同アンサンブル定期演奏会』において広島(セシリアホール)で宗貞啓二氏の指揮により初演され、大好評を博した。同年10月、〈京都の秋・音楽祭〉(京都コンサートホール)において再演され、盛大な拍手が鳴りやむことなく多くの共感の声が寄せられた。
  題名の「ピコ」とは、「ナノテクノロジー」、「ミリメートル」、「キログラム」、「メガバイト」、「ギガヘルツ」などのように単位の形容詞で、10-12(一〇のマイナス十二乗)である。例えば一ピコグラムは、一兆プンの一グラム(0.000000000001グラム)である。バルトークの「ミクロコスモス」(小宇宙)を少々もじって、「ナノ」(10-9)よりもさらに小さい「ピコ」を使って「微小の世界」を現したいと考えた。「ピコ」の如く作品の細部に拘りながらもマクロ的視野に立って曲全体を構成していくという手法をとっている。全世界から見れば一人一人はまさに「微小の世界」ではあるが、平和を願う私達にとって一人一人の存在意義は計り知れない程大きいものである。初演年は戦後60年目であり、広島の若者達の演奏により世界に向けて届けようとする「平和の祈り」は大変意義深いものである。〈ピコ・ワールド〉シリーズは、複数の主題を曲の最後に同時に響かせ、それをクライマックスとして位置づけるというコンセプトで作曲している。〈Ⅰ〉(木管五重奏曲)は、五つの主題を最後に同時に響かせる作品である。この〈Ⅰ〉は、ある楽団による委嘱作品で3回再演されている。本作品である〈Ⅱ〉も曲の最後では、神聖な雰囲気の中で第一主題と第二主題が同時に響きながらコラール風に現れ、この最後の部分がクライマックスとして、本作品のテーマである「平和の祈り」の部分となっている。

(植野洋美・植野音楽芸術・電子技術研究所所長、東広島市在住)

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